「音波」というペンネームをつかっています。


by rui-joe

リズム

ここからはどちらを見ても花ばかり続き、
大きく傾いた枝の奥にたくさんの羽音が聞こえる。

こっちに出てきても、なにもありませんよ。

どうかしたのでしょうか、みどりいろに黙ってしまうなんて。
舌の中まで凍り付いて、たくさん失われてしまいましたね。
乾いた果実たちのことを、見なかったようにして。

――――静寂―――

あじさいになるには、ちょっとしたコツがあります。
印象ではノーと言うことしかできませんが、
あなたの判断ではないことは、すべて啓示です。

(無論、知っていましたよね?)

ほら、アナウンサーが今朝も宣言します。

「みなさまのゆく明日に、たくさんのカマンベールがありますように。
 そして年月が、みなさまに平等に訪れますことを!」

果てがないということは、直ちには分からなくて。
たくさんのヒメジオン、
ほんとうにたくさんの絵筆の下の・・・

(二回だけ生き返ってももいいですか?)

誰のものか分からない電話に出るとき、
ふたしかであっても仕方がないこと。
これが個人的な感傷で、きっと、あなたにも。

いつか分かち合える時まで、
ここに、きっと隠しておきましょう。
はじめまして、あなたがた。
いつか、単純なリズムになってしまうまでのこと。
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by rui-joe | 2014-01-26 04:00 |

エノキダケ

今日、会社でひさしぶりにエノキダケに会ったよ、と
父が言うので、
一度だけ家に遊びに来たことのある
エノキダケとのあまり愉快ではない思い出が蘇った。

父の会社の上司の友人の身内だとかいうことで
いわゆるお見合いのようなものだったのだが
もっと肩の凝らない気楽なあつまりにしたいということを
父と父の会社の上司と父の会社の上司の友人が相談をして決めており
わが家にエノキダケを招待することになったのだった。

会ったこともないエノキダケと仲良くするなんていうことは
その頃の私の想像力を突き抜けた珍事であって、
わたしは何週間も何日も前から気の乗らない気分だったのだが、
せっかくの土曜日を一日つぶしてうちにやってくるということで、
少しは友好的な思い出を残してやりたいと思い、
また、ある程度は、自尊心のようなものをくすぐられてもいたのだろうか、
エノキダケのことを暖かくもてなしてやろうと思ったのだった。

それまでにキノコの類と親しくしたことのなかったわたしはしかし、
エノキダケの訪問を心待ちにしていると思われるのもしゃくだったので、
父にはエノキダケとはどう付き合えばよいのかを聞くこともできず、
丘の上の図書館までバスに乗って出かけてゆき
図鑑でエノキダケのことを調べたのだった。
図書館の3階の自然科学のフロアからは
丘の下の街並みと緑を見下ろすことができてとても心地がよく
そうした明るい光の中で様々な色や形をしたキノコの写真が収められた図鑑のページを繰っていると
わたしはなぜここでエノキダケのことを調べているのか
本当はよくわからなくなっていたのだった。

わたしは本当はエノキダケのことを待ち望んでいるのだろうか。
あんなものはキノコにすぎないのだ。
これまでに数限りなく味噌汁にしてきたナメコのことや
お吸い物に入れてきた乾燥シイタケのことや
トマトソースに混ぜ合わせてパスタに投入してきたマッシュルームのことを
私は一度でも、交際相手として認めたことがなかったのではないだろうか。
しかしそれらのことはすべて、
あの明るい陽の照らす丘の上の図書館の3階の自然科学のフロアでは
ぼやけて遠くなって消えていってしまうのだ。

わたしはそれからこうしてこの丘の上の図書館の5階の人文科学のフロアで
ずっと自分の心を探して本のページをめくり続けている。
図書館にはあまりにたくさんの本が収められているので、
そのどこにわたしの心が書かれているのか、
すぐに見つかると思っていたのにも関わらず
見つけることができなくて帰るに帰れなくなってしまったのだ。
エノキダケのことをこうして思い出していると
胸のどこかがチクリと痛む気がするのだが、
いつかこんな気持ちも本のどこかに隠れてしまうのだろう。
早くわたしの心をみつけなくては
あのとき裏切ってしまったエノキダケに申し訳がたたない。
しかし、そんな気持ちも、いつかわたしは忘れてしまう。
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by rui-joe | 2013-02-25 23:42 |
カシミヤを羽織ってお茶を飲みながら目を細めては夕暮れを待つ

流れ星を見ている人や冬の路

幹が空ろになってしまった桜の樹を切り倒してから
庭のそちら側をあまりみていないので
目を瞑るといまでも桜がそこにある姿がみえている

マヤ暦の終わりに掛ける膝毛布

会いに行くこともできるが部屋にいて薄めの本を開いては積む

悲しみが指差している駅と道

郵便にとどかない声 見つめてはいけないひかり 冬 雨が降る

右、左、右、左、とおまえは落ち着かぬ様子で
行っては帰り、帰ってはまた行く
これからお前は冬を暮らさなければならない
お前のふるさとのタイガは白く眠っているだろうか
いきものよ 最後はどこで眠りたいか
お前に選ばせてやることはできないのだ

火の時代15時ごろに幕を引く

順番に味わっている わたしたちがまだ生き延びていると信じて

人に友、犬に友ありクリスマス

新しい手帳をひらきこれからの未来を白いマスに収める
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by rui-joe | 2012-12-29 04:44 | 自由題

もし僕らの春に



もしわたしたちが
日本列島を好きにデザインしていいとしたら、
下北半島をあんな風に
しないんじゃないかと思う。
でもこれはこれで、
食パンの袋の口を閉じるやつににていて、
便利そうだからいい。

もしわたしたちが
自分が好きな奥歯を生やせるとしたら、
下の歯が抜けたときにあんな風に
屋根に歯を投げたりしないんじゃないかと思う。
でもそれはそれで、
うちの雨樋に乳歯が詰まったりしなくなって、
便利そうだからいい。

もしわたしたちが
好きなものにベルマークをつけていいとしたら、
下校時間がくるまであんな風に
点数を数えたりしなかったんじゃないかと思う。
でもそれはそれで、



あなたたちには銀のエンゼルなら5枚がありますから、
(はい、わたしたちには、銀のエンゼルなら5枚があります)


鳴り響くウェストミンスターの鐘の音

夕映えが校庭に落とす団地の13号棟の影

学校を牛耳っているといわれていた教頭の眼鏡



わたしたちには、

ヤマザキ春のパン祭りがあります。
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by rui-joe | 2012-10-17 01:56 |

てんぷら

01

はじめに主は言われた、「てんぷらのぷらあれ!」

02

てんぷらのぷらの父は波浪警報、母は流しの陶芸教室であった。

03

てんぷらのぷら!その妙なる調べに私の五感は陶然となり、意識は幽明の境をただよう。低音域から一気に駆けあがるかのような音符の連なりは、私の精神をも高揚させてゆくかのようである。宇宙のすべては渾然となって、てんぷらのぷらと私との、永遠の対話の中に集約されていくのである。

04

ぼくはおおきくなったら、てんぷらのぷらをやっつけてみせる。もうだれも、こんなかなしいきもちにならないように、かならず。そう、かならずだ。

05

ちょっとシャイなカレシに、勇気を出させるための恋のマホウって知ってる?お風呂に入って体をきれいに洗ったあと、ピンクローズの香水を一滴、それから、てんぷらのぷらをお湯に落としてみて。よーく洗って、ぴかぴかのカラダになってからじゃないとダメ。それからじっくり、そのお湯を体に染み込ませるの。そうしたら、必ずカレのほうから誘ってくれるんだって♪

06

はい、裁判長。わたしが店に勤めていたころから、鮮度の落ちたてんぷらのぷらの部分だけを、再利用してもう一度お客様にお出しすることがありました。ご承知のように、てんぷらのぷらの部分だけでしたら、よほど舌の肥えたお客様でなければ、すこし古くなったものを使っても気づかれる恐れはありませんでしたから。そのような店のやり方が嫌になって、わたしは今の店に移ったのですが・・・。ええ、裁判長、わたしとしても、今回このような問題になって、とても残念な気持ちです。

07

われわれに!てんぷらのぷらがある限り!われわれはこの先何年でも戦うことができる!われわれは選ばれた民であり、われわれの理想の実現を拒む愚昧な他民族どもを、てんぷらのぷらの威光によって正しい道に導くことこそ、われわれの真の使命なのであるからだ!

08

てんぷらのぷらの秘密を教わってあなたはだんだん母に似てくる

09

宇宙空間には何もないという立場と、宇宙空間はてんぷらのぷらで満たされているとする立場がかつてあったが、光の速度を厳密に測定することが可能となった現在では、宇宙はてんぷらのぷらでいっぱいであることが明らかになっている。

10

みんな自分の小さな幸せを守るために、精一杯になってがんばっている。どんな嫌なことがあっても、翌日には今日と同じ時間に起きて、知らない人とぶつかり合いながら満員電車に乗って、会社に通わなくっちゃならないんだ。そうやって疲れて疲れて疲れきって、ああ、これは本当にもうダメかもしれないなって思ってしまったら、そういうときには、てんぷらのぷらのことを考えるといい。みんな、おんなじなんだよ。なんだか分からないもの、すごく恐ろしいものと立ち向かわなきゃならないときは、きっとてんぷらのぷらが役に立つんだ。だっててんぷらのぷらは、誰からも近い、すごく近いところにあるんだからね。
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by rui-joe | 2011-01-23 03:30 |

遠い声

 (太陽はただ白い、わたしとあなたは同じ世界に住んでいる、そこは幸福な前提のある七月だ)
 室外機が忠実なケモノのように熱風を押し出す
 カラコロと音を立てて転がる骨を繋ぎ止めるシナプスの末梢
 内側と外側を無秩序に接続していく略奪者だった

 このあたりで良心の整理が必要でしょう、と恒星が錆びながら昇る
 善良な缶詰の救済を伝える深夜の鐘
 見渡す限り分裂してゆくチョウセンアサガオの傍証
 風見鶏が子午線にしたがって夏を告げながら
 振り返ってみるたびに通奏低音がほつれて散らばり、
 何を以って不当だと告げているのか、このスタンザは

 テーブルに置かれたままのオレンジジュース
 一度だって満足にさようならが言えたためしがない
 呼びかけても立ち止らない程度の自己言及
 旅立ちは感覚的で、説明も忘れた水流の波長
 善意を隠したまま対向車線を垂直に侵攻し、
 チケットには二種類しかない。善良なものと、もう狂ってしまったものと。

 救済は一度しかありませんから耳を済ませて
 手を振ったのはさようならの準備ですか
 イニシエーションを終えたら、笑顔は武器にしなければならない
 与えられたものではなく、選び取った義務に忠誠を誓う

 そろそろ初心を忘れてもいい頃ですよ
 音を立てて降り積もる炎
 虚無に残された適切な積分線を与えれば
 さっきまでそこにいたはずの彗星の行方

 参観日には偶然を装った蝶の俯瞰
 ほんとうの卒業式(そっちに行ったら帰れなくなりますよ)
 無批判に受け入れられること、忘れたふりをすること、
 呼びかけても振り返らない向日葵の忘却
 よく見てごらん、大気には、善意が満ちている。

 はるばると来た気がしている 実際は、
 まだ夜が伝わってくる少し前
 二度ばかり前回りして秋星座
 名付け親を誰も知らないカレンダー

 雲梯の頂上、夏を惜しむ庭
 普段着で探検をする蜻蛉たち
 見渡せば銀杏並木の焼けた土
 遠回りだから一駅だけ歩く
 こんな陽にあたるところは初めてで照れくさいけれど、愛をありがとう

 銀色の歌をふたつの耳元に届ける、せめて眠れるように
 勤勉な電光にさようならを伝える 夜は私たちのものである
 呼び掛ける密かな声の影法師
 訂正の要る壁ばかり置いてみる
 出発を待ってから目を開けてください

 語るべき言葉はあまりに多くの星々を呑み尽くしてきたから
 すべての言葉を使って、わたしはあなたに宣誓する
 懐かしさの高なりに文字が乱れる
 平凡な言辞では、見つけられなかった胞子たち
 最終的な躍動は、一瞬のアウフタクトの反証
 目覚める直前に、祈りのような瞬きが翻り
 初めての陽光を待っている隠喩

 完璧な一筆書きの波の歌
 単純に口ずさんでる四分休符
 小数点は絶望ではなく恩恵であるのだから
 さようならは、しばらく方程式の中

 さえずりを止めた広場に残る声
 見つけ出すあなたの最後のひと欠片
 終会を告げる季節の小休止
 個人的な感謝を個人的な渚に

 緞帳を下ろす手首の鐘の音
 再会を約束しては手を振って短く愛を伝える音波
 さっきまでざわめいていた月の影
 不確かな絶望そこに
 語るべき思い出の夜 遠い声からすべて始まる
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by rui-joe | 2010-07-07 01:30 | 自由題