「音波」というペンネームをつかっています。


by rui-joe

遠い声

 (太陽はただ白い、わたしとあなたは同じ世界に住んでいる、そこは幸福な前提のある七月だ)
 室外機が忠実なケモノのように熱風を押し出す
 カラコロと音を立てて転がる骨を繋ぎ止めるシナプスの末梢
 内側と外側を無秩序に接続していく略奪者だった

 このあたりで良心の整理が必要でしょう、と恒星が錆びながら昇る
 善良な缶詰の救済を伝える深夜の鐘
 見渡す限り分裂してゆくチョウセンアサガオの傍証
 風見鶏が子午線にしたがって夏を告げながら
 振り返ってみるたびに通奏低音がほつれて散らばり、
 何を以って不当だと告げているのか、このスタンザは

 テーブルに置かれたままのオレンジジュース
 一度だって満足にさようならが言えたためしがない
 呼びかけても立ち止らない程度の自己言及
 旅立ちは感覚的で、説明も忘れた水流の波長
 善意を隠したまま対向車線を垂直に侵攻し、
 チケットには二種類しかない。善良なものと、もう狂ってしまったものと。

 救済は一度しかありませんから耳を済ませて
 手を振ったのはさようならの準備ですか
 イニシエーションを終えたら、笑顔は武器にしなければならない
 与えられたものではなく、選び取った義務に忠誠を誓う

 そろそろ初心を忘れてもいい頃ですよ
 音を立てて降り積もる炎
 虚無に残された適切な積分線を与えれば
 さっきまでそこにいたはずの彗星の行方

 参観日には偶然を装った蝶の俯瞰
 ほんとうの卒業式(そっちに行ったら帰れなくなりますよ)
 無批判に受け入れられること、忘れたふりをすること、
 呼びかけても振り返らない向日葵の忘却
 よく見てごらん、大気には、善意が満ちている。

 はるばると来た気がしている 実際は、
 まだ夜が伝わってくる少し前
 二度ばかり前回りして秋星座
 名付け親を誰も知らないカレンダー

 雲梯の頂上、夏を惜しむ庭
 普段着で探検をする蜻蛉たち
 見渡せば銀杏並木の焼けた土
 遠回りだから一駅だけ歩く
 こんな陽にあたるところは初めてで照れくさいけれど、愛をありがとう

 銀色の歌をふたつの耳元に届ける、せめて眠れるように
 勤勉な電光にさようならを伝える 夜は私たちのものである
 呼び掛ける密かな声の影法師
 訂正の要る壁ばかり置いてみる
 出発を待ってから目を開けてください

 語るべき言葉はあまりに多くの星々を呑み尽くしてきたから
 すべての言葉を使って、わたしはあなたに宣誓する
 懐かしさの高なりに文字が乱れる
 平凡な言辞では、見つけられなかった胞子たち
 最終的な躍動は、一瞬のアウフタクトの反証
 目覚める直前に、祈りのような瞬きが翻り
 初めての陽光を待っている隠喩

 完璧な一筆書きの波の歌
 単純に口ずさんでる四分休符
 小数点は絶望ではなく恩恵であるのだから
 さようならは、しばらく方程式の中

 さえずりを止めた広場に残る声
 見つけ出すあなたの最後のひと欠片
 終会を告げる季節の小休止
 個人的な感謝を個人的な渚に

 緞帳を下ろす手首の鐘の音
 再会を約束しては手を振って短く愛を伝える音波
 さっきまでざわめいていた月の影
 不確かな絶望そこに
 語るべき思い出の夜 遠い声からすべて始まる
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by rui-joe | 2010-07-07 01:30 | 自由題